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ケガレについて

令和6年6月29日

気まぐれ講話その三



先日、当方の「祓へ(祓え)と祓ひ(祓い)の違い」をお読み下さった方から「ケガレ」についてのお尋ねがありました。そこで、現時点で分かっていることを以下A〜Cにまとめました。


A. 上代語の文字資料(奈良時代及びそれ以前の日本語を伝える文献類)には、ケガレという語を一字一音式の万葉仮名で記された例はありません。
漢字は中国語の意味と音を表わす文字ですので、日本でケガレと訓まれている漢字にはどのようなものがあるのか。どのような漢字をケガレと翻訳しているのか、というところから日本語ケガレの意味・語源を探ることになります。

B. ところで、上代語文献でケガレ(ケガル)と訓まれている漢字は「汚垢」(古事記)や「濁穢・所汚・穢悪・濁・放屎・姧」(日本書紀)等です。万葉集にケガレは見受けられず、「穢」はキタナシと訓んでいます。
尚、平安時代以降の多くの文学作品は平仮名で書かれています。平仮名や片仮名は日本語の音節表記文字ですから、キ(木)・ヒ(火)・メ(目)等の一音節語を除くと、平仮名や片仮名の一字一字は意味を表わしていません。

C. 現在、ケガレの語源については次の三種が見られます。
①「気枯レ」説(新井白石)
②「毛枯レ」説(類聚名物考)
③「褻・離レの複合か」説(岩波古語辞典)

いずれもケガレという語の構成を「ケ・ガレ」で考えていますが、これでは自動詞(ケガレ、ケガル)の説明はできても、他動詞(ケガス)の説明が出来ません。もし①「気枯レ」だとするならば他動詞形は「気枯ス」であるはずです。しかし、「枯ル」はあっても「枯ス」は無く、他動詞形は「枯ラス」ですから「気枯ラス」となってしまいます。②も同様に考えられます。尚、「毛とは諸草の名なり」と断ってはいますが、ケガレが「毛枯レ」というのは誤解され易い文字選択ですね。③の場合、「離ル(カル)」という語はありますが「離ス(カス)」という語はありませんので、「褻離ス(ケガス)」も存在しません。その上、日常を意味するケ(褻)から離れるのがケガレ(褻離レ)であるなら、非日常であるハレ(晴)もケガレになってしまい矛盾します。

現在は①説で考える人が大多数で、ケガレを生命力やエネルギーの涸渇という類の説明がなされるようですが、私は「ほんまかな?」と思います。なぜなら、古代アクセントの上から考えても①説は成立し難いと思われるからです。

ケガレと類似した意味を持つ語にキタナシ(汚・濁・穢)やカタナシ(穢陋。みにくい・いやしい意)があります。日本書紀では「濁心・黒心」をキタナキココロと訓んでおり、邪心や秩序破壊の心を指すようです。ケガレは「不浄・よごれる・きたない」等の意味で理解できそうな気もしますが、キタナシよりも限られた事象について使われていたようにも思われます。

上記①~③の各説は語構成を「ケ・ガレ」と考えたから行き詰ったのです。そこで、語構成を「ケガ・レ」と捉え直した新説が出ました(西宮一民「ケガレの語源」)。ケガ(怪我)を語幹とし、ルとスを活用語尾とみたのです。初めて読んだ時は「変わった説だな」と思いましたが、我慢して日を置き5回読むと分かりました。そこで、西宮宅を訪ね「先生のケガレ説を支持します」と伝えたら、「そうか、君も支持してくれるか」と言われました。「えっ、私が一番ではなかったのですか?」と尋ねたら、「一番は谷省吾(タニセイゴ。国史学・神道学者)さんで、君は二番」との答え。昭和末~平成初め頃のことです。私はこの説に7~8割賛成ですが、今も考えています。


天神社宮司

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